急性心筋炎 ~風邪をこじらせて心臓にウィルスが入り込む~

急性心筋炎季節もようやく暖かくなり、心血管の負担が減り、過ごしやすい季節になって参りました。

今回はそんな油断した頃に現れる怖い疾患についてのお話しです。

暖かくなると、心筋梗塞、心不全、大動脈解離といった生命を脅かすような恐ろしい病気が減ってきますが、そんな中、紛れるように重篤な状態で搬送されてくることがあるのが心筋炎です。

これは、副題にもあるように、最初はただの風邪を引いただけなのに、その風邪ウィルスが何らかの原因で心臓にまで入り込んでしまい、心筋に炎症を起こすことで発症します。

つまり、最初はただの風邪です。風邪をひいてなかなか治らないと思っていたら、ある日、急に胸が痛くなる、苦しくなるなどのおかしな症状が出始める。

人によっては、背中や肩に放散するような痛みを伴うこともあります。また、進行して心不全に至れば、呼吸がゼーゼーと苦しくなったり、全身が浮腫んだり、不整脈が発生すれば突然死を起こすこともあります。

昨今、問題となっている新型コロナウィルスで重症化してしまった患者さんの中には、コロナウイルスが心臓に入り込んでしまい、心筋炎になってしまったために重症化した患者さんも含まれています。

ウィルスが入り込む心筋炎は、風邪と同じでウィルスを殺す治療薬はありません。自己の免疫力でウィルスを排除するまで待つしかありません。

それまでの間、弱った心臓をサポートする薬や、機械(人工心肺ECMOなど)で耐えるのが治療です。

心臓の風邪、皆さんも知っておいてもらえればと思います。発熱と胸痛がある場合は注意してみてください。

失神 ~短時間意識を失った後に元に戻る~

失神皆さんは、急に目の前が真っ暗になって倒れてしまった経験はないでしょうか?

失神とは、このように急に倒れてしまう短時間の意識消失のことで、その間の記憶は完全に途絶えていますが、数十秒間、長くても数分間で意識は完全に戻ります。

そして何事もなかったかのようにケロッとしています。これが失神です。そのため、本人もあまり重篤感はなく、病院を受診しない方もたくさんおられます。

もっとも身近に起こる失神は、神経調節性失神と呼ばれるもので、血が苦手な人が採血の時に血を見て倒れてしまうのが典型的です。

そのような失神は、一般的に良性の失神であり心配はありません。ですが、このような良性の失神と間違われやすい危険な失神もあります。

その代表が、心原性失神です。何らかの心臓疾患によって、一時的に脳への血流が低下して起こり、その原因となる心臓の病気によっては、突然死を起こすこともあります。

例えば不整脈。不整脈といっても様々な不整脈があり、失神の代表となるのは、徐脈性不整脈(脈が遅くなる不整脈)です。

これは、失神する場合は危険性も高く、その多くはペースメーカーを植え込まなくてはなりません。また、以前お話しした、狭心症・心筋梗塞などの虚血性心疾患が隠れている時もあります。

また、弁膜症(大動脈弁狭窄症)が隠れていることもあります。これらの場合も、失神するような状態では重篤であり、早急に治療しなければ突然死の危険があります。

従って、もし、日常生活で、ほんの短時間でも倒れて意識を失ったようなことがあれば、たとえその後、元気であっても一度は精密検査を受けることをお勧めします。

急性大動脈解離 ~突然の胸背部痛~

急性大動脈解離今年は大雪となり、寒い季節が続いておりますが、皆様の体調はいかがでしょうか?さて、大雪が降ると除雪に関する事故が多数発生します。

その中で、循環器に関わる病気も発生しやすくなりますが、その代表的なものが急性大動脈解離です。

芸能人の加藤茶さんが患った事でも有名となりましたが、この疾患は突然、体の中心を走っている一番太い血管の大動脈の壁に亀裂が走り、裂けてしまう病気です。

その一番の原因が高血圧なのです。除雪をするとき、皆さんは踏ん張って息を止めて、雪をスコップで投げますよね?これが急に力を入れる無酸素運動であるため、この瞬間、急激に血圧が上がります。

普段から血圧が高い方は、この瞬間、血圧が200㎜Hg以上になる方も少なくありません。

血圧とはすなわち、血管の中にかかる圧力であるため、体の一番太い大動脈に大きな圧力がかかり、その瞬間、大動脈に亀裂が走ってしまうのです。

胸から背部にかけて、瞬間的に移動性の激痛が走り、痛みは持続します。

大動脈解離には2つのタイプがあり、心臓から出てすぐの上行大動脈に亀裂が走ると、A型解離といい、放置すれば48時間以内に50%近くの人が亡くなるため、緊急の大手術が必要となります。

背中から足まで走る下行大動脈に亀裂が走ると、B型解離といい、基本的には、血圧をぎりぎりまで下げ、入院絶対安静で傷口が安定するのを待つ治療となります。

急性大動脈解離は、ある日突然、太い血管が裂け、命の危機に直面する恐ろしい病気です。なってしまってからでは遅いのです。

ですから、高血圧の早期発見、しっかりとした血圧管理、治療が重要なのです。急性大動脈解離は当地のような寒い地域に多い疾患です。

皆様も是非、血圧を放置せず早めに相談してください。

閉塞性動脈硬化症 ~足が冷たい、歩くと痛くなる~

閉塞性動脈硬化症新年あけましておめでとう御座います。本年もよろしくお願いいたします。

さて、今回は足の冷え性に関するお話です。足の冷え性の方はたくさんいらっしゃると思いますが、その中には単純に冷え性なだけではなく、足の血管が閉塞してしまっている方がいます。

それが閉塞性動脈硬化症です。この病気は、足の動脈が、喫煙、高血圧、糖尿病などの原因により徐々に動脈硬化で狭くなり、閉塞してしまうことで起こります。

最初の初期症状は、歩くと足先からふくらはぎにかけて痛くなる、休むと治る(間欠性跛行といいます)という症状です。

また、進行すれば、血流が悪くなるにつれ、じっとしていても足が冷たくなり、痛むようになり、最終的には足の指先から黒く変色して腐食してしまい、下肢を切断することになります。

この病気も進行してしまってからでは治すことは非常に困難です。初期の間欠性跛行の症状の頃であれば、下肢の血管カテーテル治療によって、狭くなった血管を広げて治療することができます。
進行してしまえば、閉塞した血管は固くなり、あまりにも血管がボロボロの状態になると、カテーテル治療で治すこともできなくなってしまい、足を切断するという苦渋の選択を迫られることもあります。

そうなる人を一人でも減らしたい、高齢になっても元気に歩いてほしい
、そう願って記事を書きました。下肢の冷え、歩行時のふくらはぎの痛みなど気になる方はご相談ください。

息切れと浮腫 ~自覚症状は他人との比較ではなく、自分の中で比較せよ~

息切れと浮腫様々な病気には自分で感じる症状『自覚症状』がありますが、自覚症状とは自分が感じる主観であり、人によって異常だと感じる程度は異なります。

つまり、自分では病気だと思っていた症状が検査では異常なしであったり、逆に、自分ではたいしたことないと思っていた症状が、実は重大な病気だったりします。

心不全の自覚症状には労作時の息切れと浮腫があります。

今まで健常であった人が平地を50m歩いただけで息切れで歩けなくなるとなれば明らかに病的かもしれませんが、高齢の方が階段を登ると息切れがするでは人によっては体力の低下だけでもありえるため、それが病的であるかどうかの判断は難しい。

浮腫も同じで、夕方に足がむくみっぽい感じがして靴がきつくなったりするのは長時間の立ち仕事でも起こりますが、足についた靴下の跡がいつまでも消えない、指で押すとはっきりと指圧痕が残る、などは病的でしょう。

また、浮腫んでくれば体重が増加します。体重が月に1kg増えることはあっても、1週間で1-2kg以上増えてきたら病的なものを疑いますよね? 今述べた基準はあくまで私個人の主観基準であって、人により賛同できない方もいるかも知れません。

『自覚症状』は、あくまでその人の中の基準であり、人によって正常と異常の程度が違うため、患者様が訴える自覚症状からの正常・異常の判断は難しいのです。

ただし、ある特定の個人の中では判断基準は変わりません。

つまり、ある80歳代のAさんが家の階段を昇ると息切れがすると言われても、歳のせいにしがちになりますが、そのAさんは、以前は畑仕事もして、週3回は春日山階段も昇っていたと言われれば、家の階段で息切れがするのは病的だと思います。

つまり、ある特定の個人の中での自覚症状の変化の方がより重要だと思います。そんなところを私達は意識して診ています。異常を感じるようであればご相談ください。