高血圧② ~痛くも痒くもなく水面下で進行する~

高血圧前回、血圧の測定の仕方について詳しくお話させていただきました。今回は高血圧の弊害についてお話させていただこうと思います。

健康診断で高血圧と診断された方はたくさんいらっしゃると思います。実際、我が国でも高血圧の患者様は推定4300万人いると言われておりますが、適切に血圧がコントロールされている方は1200万人に過ぎません。

その中には高血圧と知らない(1400万人)、知っているが放置している人(450万人)、治療しているが血圧目標値に到達しない人(1250万人)と推定されています。

つまり高血圧の人の約70%以上の人は適切に治療されていません。なぜそのようなことになるのか?それは高血圧には症状がないからです。

表題のとうり、痛くも痒くもなく、知らない間に水面下で体を蝕んでいきます。高血圧を放置するとどうなるか?まず、一番多いのが『心疾患(心不全、心筋梗塞)』です。

64歳以下から血圧が高い場合、その死亡リスクは最大8倍近くにもなります。心疾患では、ある日突然、呼吸が苦しくなったり、胸痛が起こったり、最悪、昨日まで元気だった人が、突然亡くなってしまう突然死に至ることもあります。

そして次に多いのが、『脳卒中』です。ある日突然、手足が動かなくなったり、最悪、寝たきりになります。いずれも、高血圧による血管が傷んでくることによる血管疾患であり、血管疾患はほとんど予兆がありません。

痛くも痒くもなく、水面下で進行し、元気だった人がある日突然なるのです。だから、元気なときに是非、耳を傾けてほしいのです。

なってからでは遅い。なってからでは麻痺や、ひどい息切れなどの後遺症が残り、現代の医療でも元に戻すことはできません。

なぜ健康診断をするのか?それは、脳卒中や心疾患になり、後遺症で自分で動くこともままならい、そんな人を一人でも多く減らし、健康な長寿を目指してもらいたいからです。

高血圧 ~正しい血圧測定を知る~

高血圧高血圧はありふれた疾患であり、健康診断などで指摘された方もたくさんいると思います。

ですが、血圧の正しい知識を持っている方は少ないのではないでしょうか?血圧の値には、心臓の収縮/拡張に合わせて、それぞれ収縮期血圧/拡張期血圧の2つがあり、120/80mmHgであった場合、収縮期血圧は120、拡張期血圧が80となります。

我が国における高血圧に起因する脳心血管病死亡者数は約10万人と推定され、特に収縮期血圧が関与する割合が高いと言われています。

血圧は正常な方でも、強い運動や精神的に興奮すれば180近くになることもあり、1日のうちで大きく変動しているため、測定するには適切な方法が必要です。

測定環境として、

  • 静かで適当な室温の環境(特に寒さに注意)
  • 原則として背もたれ付きの椅子に足を組まずに座って1-2分の安静の後に測定する(足を組むと下半身の血流が阻害され血圧は上昇します。)
  • 会話をかわさない
  • 測定前に喫煙、飲酒、カフェインの摂取をしない
  • 血圧計のカフの位置は心臓の高さと同じにする

以上が適切環境です。

また、測定の条件として

  • 朝起床後1時間以内であり
  • 排尿は済ませてあり
  • 朝食前、朝の内服の服用前であり
  • 座位で1-2分安静にした後に測定する

事が必要です。そして、利き手と反対の手で測定し、1回の測定につき、原則2回測定、その平均値を採用します。

ただし、2回の測定した値の差が5mmHg以上ある場合は、再度、測り直してなるべく差がなくなるようになった2回の平均値を採用するのが正確な値となります。

このように、血圧は実は正確に測定するだけでもかなり大変です。白衣高血圧と言われるように、病院では上がってしまう方も多く、血圧の基準値も、家庭血圧は135/85mmHg以上、診察室では140/90mmHg以上を高血圧として扱います。

次回、高血圧の害についてお話しをさせて頂きます。

エコノミークラス症候群 ~足の張り、浮腫、疼痛は危険なサイン~

エコノミークラス症候群今回は以前、話題になったエコノミークラス症候群(正式名称:肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症:以下、肺塞栓症と省略)に関してお話したいと思います。

肺塞栓症は、病名にもあるように、長時間の座位、臥床によって下肢の深部静脈に血栓が発生し、それが静脈を流れて飛んでいき、全身の静脈血流が集まる肺の血管で詰まってしまう病気です。

下肢にできる血栓は巨大血栓であることも多く、それが肺に詰まった場合、肺の血管の半分近くを閉塞してしまうこともあります。

すると、全身の血液は肺に戻れなくなり、血流が止まってしまい、ショック状態となって突然死することもあります。発症の代表的な例を示しましょう。

デスクワークで長時間座っていたり、ヨーロッパ旅行のように長距離フライトで長時間座っていると、下肢の血流が悪くなり、血栓が発生することがあります。すると足が腫れて痛む症状が出ます。

そして、歩き出した途端、下肢の血流が良くなり、足にできた血栓が流れて飛んでいき、肺で詰まってしまい、急激に呼吸苦、血圧低下、ショック状態となるのです。

危険因子として、喫煙、長時間安静、ピル内服、肥満、癌を患っている、などが挙げられます。

予防としては、長時間動かない状態を作らないようにこまめに下肢を動かすこと、そして長時間安静となるときは、『弾性ストッキング』という下肢を締め付けて静脈の流れを良くするストッキングを着用することなどをおすすめします。

もし、下肢の腫れ・痛み(通常片側のみ)、急に悪化した息切れ・胸痛などがあれば、肺塞栓のサインかも知れません。循環器科にご相談ください。

弁膜症③ ~心雑音の代表 僧帽弁閉鎖不全症~

弁膜症前回、高齢の心雑音の代表『大動脈弁狭窄症』についてお話させていただきました。

今回は心雑音で見つかるもう一つの代表的な弁膜症『僧帽弁閉鎖不全症』に関してお話させていただきたいと思います。

肺で酸素を取り込んだ血液は、まずは心臓の中の『心房』というお部屋に入ります。その後、血液は『心房』から『心室』へと流れ、『心室』は強く収縮して全身へと血液を送り出します。

僧帽弁とは、この『心房』と『心室』の間についている蓋であり、血液が心房から心室に流れる時に開き、心室から全身へと押し出されるときには、心房へ逆流して血液が戻ってしまわないように閉じる仕組みになっています。

この蓋が壊れてしまうと、心室から心房へ血液が逆流してしまい、心臓の中で徐々に血液がうっ滞します。

すると心臓が膨らみ、心拡大を起こし、進行して『心不全』に至ります。僧帽弁閉鎖不全は年単位でゆっくりと進行していくため、初期には自覚症状は全くありません。

そのため、最初のサインはやはり、心雑音です。その後、徐々に進行し、負担のかかった心房からは、以前お話した不整脈『心房細動』が発生します。これにより心臓の中で血栓が発生しやすくなり、脳梗塞のリスクが上がります。

そしてさらに進行すれば、『心不全』の初期症状である歩行時の息切れ、下肢の浮腫が出てきます。その後、徐々に心臓の機能も低下し始め、一度低下した心臓の機能は、手術で僧帽弁を修復しても戻りません。

そのため、その後も心不全の症状に悩まされることになります。したがって、心雑音に気づき、その経過を観察し、適切な時期に手術をすることが重要です。健康診断の心雑音を指摘されたら早めにご相談ください。

弁膜症② ~高齢化とともに増える大動脈弁狭窄症~

弁膜症前回、心雑音で早期に気づく弁膜症に関して概説させていただきました。今回は、弁膜症の中でも高齢化とともに増加している『大動脈弁狭窄症』に関してお話させてただきたいと思います。

この病気は、心臓の出口に当たる大動脈弁という蓋が、加齢による変性などで狭くなる病気です。

血液を送り出すポンプである心臓の出口が狭くなると、狭い出口に無理やり押し出された血液は、水道のホースを潰して水を遠くまで飛ばすように、勢いよく強い圧力で出ていくようになります。

その際に、雑音が発生し、勢いのある血液は大動脈に負担を与え、さらに狭い出口に無理やり血液を押し出している心臓には圧力の負担がかかり、心臓の筋肉が肥大し、心肥大が起こります。

すると、肥大した心臓の筋肉は力はあっても固くなってしまい、柔軟に拡張できなくなります。これを拡張障害といい、血液が十分に心臓に入れなくなるため、血液が鬱滞し、心不全となります。

大動脈弁狭窄症では、有名な3大症状があります。1.胸痛、2.失神、3.心不全(呼吸苦)です。血液が出ていけないことで、心臓自身にも栄養が回らなくなり、さらに肥大した筋肉は栄養が足りず、狭心症のような胸痛が出ます。

そしてさらに送り出す血液が足りなくなれば、脳への血流が低下して、失神します。そして、送り出せないだけでなく、肥大して拡張できなくなった心臓では、血液が鬱滞し、心不全となります。

これらの症状が出ると、急激に生命予後が悪くなり、胸痛では余命45ヶ月、失神では27ヶ月、心不全では11ヶ月と言われています。次回、新しく変わってきた大動脈弁狭窄症の治療に関してお話したいと思います。